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SSシリーズ欧州形 蒸気機関車

 3  エンジン

旋盤やフライス盤の加工が済んだ部品に手を加えてエンジンにまとめ上げていきます。現在は構造や製作方法が詳しく記されている書籍(1)がありますが,以前は図面が唯一の頼りなので分からない部分も多く四苦八苦しました。
エンジンの概要

形式 SSシリーズ89mm蒸気機関車のエンジンはシリンダーの上にスチームチェスト(蒸気室/バルブチェスト)を取付けた模型機関車に多い構造です。

バルブの形式は実車のようなシリンダーバルブではなく製作が楽なD型スライドバルブ(滑り弁)です。

(右図) エンジンの基本構造の図に各部の名称も書き入れてみました。D型すべり弁のエンジンはピストンロッド(棒)とバルブスピンドル(弁心棒)の動きが実車とは異なりますが,初心者には作り易く修理や調整が楽な構造です。

出力 エンジンでつくり出される牽引力はシリンダーのサイズと蒸気圧によって決まります。このエンジンの牽引出力をライブスチームの本でときどき見かける次の式によって計算してみました。(式については下段に補足があります。)

SSシリーズの各部のサイズは d=28mm,s=34mm,D=80mm,また,シリンダー内の蒸気圧pはボイラー内よりも低下するので,仮に p=3.0kg重/cm2 し,長さの単位をcmに揃えて代入しますと

となります。

実際の牽引力は製作の精度,摩擦抵抗,動輪の粘着力なども関係します。上記の式はエンジンの出力を単純に推進力に換算したもので,実態を反映したものでなく参考程度の数値でしかありません。

この機関車の特徴になりますが,動輪を小さく設計しているので小型エンジンの割には大きな牽引力が得られます。一方,出力 :仕事率=牽引力×速さ の関係からスピードは控えめになっている機関車です。
補足(計算式について) ちょっと見ると難解?な式で実験式のようなものかと思いましたが,式中に動輪の直径Dがあるのにπが無いので,エンジンと機関車の仕事率の関係から得られると気づき計算してみました。
ピストン1行程の仕事をW1,1行程に要する時間をt としますと,ピストンの仕事率(=単位時間にする仕事)W1/t になります。気体のする仕事W1は W1p(蒸気圧)×(シリンダー容積の増加) ですから,仕事率は
       W1/tp×÷tp×[π×(d/2)2×2st

一方,機関車の仕事率W/t を機関車の牽引力Fと速さv から求めますと,ピストンの1行程(時間=t)で動輪は1回転しますから,
      W/tF(牽引力)×v( 速さ)=F×[2×π×(D/2)]/t
  

2気筒の機関車なので,仕事率の関係は(エネルギーロスを無視して)
  2×W/tW/t となります。よって
の式が導かれます。

(注)永久機関が出来そうなレベルまで単純化した要素と条件とで導くので,この式による計算値と実測値とではかなり大きな差になる筈です。 ただ,出力向上には径の大きいシリンダーが有利だとか,動輪の径が牽引力にどう影響するかなど設計する上では役に立つ式だと思います。
シリンダー

シリンダーブロックは砲金鋳物で旋盤やフライス盤による加工が終わった段階で頒布されました。(シリンダーブロックは最も製作が難航する箇所の1つで,初心者には気軽には手が出せない箇所でもあります。)

このブロックに手を加え取付ける部品の加工やネジ穴を開け,バルブシート(弁座板/下写真の米印 のところ)の摺り合わせなどを行った後,組立作業に入ります。(下写真)

17 シリンダーブロック 上面がバルブシート(※印)で中央の穴は排気口に通じ,左右の穴は各々シリンダーの両端に通じている蒸気ポートです。

18 シリンダーカバー(前)  19 シリンダーカバー(後)

20 パッキン 液状のシール剤ではなく,ファイバーシートから切り出した昔ながらの手作りです。

21 シリンダーカバーパッキング押さえ カバーにねじ込んで取り付け,中心の穴にピストン棒を通し,気密を保つためにパッキンを詰めます。

22 スライドバーブラケット 後部シリンダーカバーに2本のネジで取付けます。 これ自体はシリンダーの部品ではなく滑り棒(スライドバー)を取り付ける部品です。

(余談) 上の写真を撮って2122 が他の部品と異なる色に見えたので撮り直そうかと思いました。しかし,同じ条件で撮った下の写真から理由が分かりました。肉眼では色の差が分からない<砲金>と<真鍮>を写真は明白に区別して映し出しています。
ピストン

ピストンは真鍮製でピストンリングを3本嵌め,ステンレス製のピストンロッド(ピストン棒)を取付けます。

(右写真)
21 シリンダーカバーパッキング押さえ
22 スライドバーブラケット

23 ピストンリング ピストンはできるだけ摩擦を小さくする一方で機密性が良くなければなりません。その対策として3本のピストンリングを取り付けます。

24 ピストン 直径28mm,幅13mmです。

25 ピストンロッド
スチームチェスト2

スチームチェスト(蒸気室/バルブチェスト)はシリンダーブロックの上に蓋のように載せ,10本のボルトで固定します。一体構造ではなく部品を組み合わせて構成するので接合面の平面度に注意して気密性に問題が生じないようにしました。

また,スチームチェストの内部ではスライドバルブが蒸気ポート(写真中の※印)の開閉を行います。少ない部品数ですが時間をかけて各部のサイズを正確に仕上げないと十分な出力が得られません 。
(左写真)
17 シリンダーブロック (上記参照)

26
スチームチェスト(蒸気室 )

27 バルブスピンドル詰め箱 スチームチェストにねじ込んで取付けてあります。中央の穴にバルブスピンドルを通します。

28 スライドバルブ(D型滑り弁) 底面の中央に長方形の窪みがあります。断面は最上部の図にあります。

29 スライドバルブ案内 中心の穴にバルブスピンドルを通しネジで留めます。これをスライドバルブの溝に載せます。スライドバルブをバルブスピンドルから離した状態で滑らせるための部品です。

30 バルブスピンドル(弁心棒)

31 バルブスピンドル押さえ 穴にバルブスピンドルを通してバルブスピンドル詰箱にねじ込みます。

32 パッキン ファイバーによる手製です。気密を保ちます。

33 スチームチェストカバー エンジンの整備調整のためにスチームチェストは時々開ける必要があります。
 
組立が終わったエンジン

番号1732までの部品で組立てたエンジンです。

ねじ類とロッド周りのパッキンが別に必要ですが,エンジン本体は上記16種の部品( 番号22の部品は除く)だけで出来上がっています。

(注)部品を分解した上の写真は 右エンジン用の部品ですが,組み立てた右の写真は左エンジンです。部品の形は左右対称になっています。
スライドバルブ

スライドバルブ(すべり弁)はバルブシート(弁座板 )の上を滑りながら交互に2つの蒸気ポート(給気ポート)の開閉を行なってピストンを往復運動させています。

メカニズムとしては単純ですが,ボイラーの限られた蒸気量をできるだけ有効に使うことと,スムーズな運動を行なわせるためにピストンに送る蒸気の量とタイミングを適切にする工夫がなされています。

早期締め切り ピストンは往復運動,動輪は回転運動をしますから,ピストンは単振動に近い運動をします。
単振動であればピストンのデッドポイント(単振動の両端)では復元力を最大にする必要があるわけで,シリンダー内にいつまでも蒸気を供給し続けるのは得策ではありません。

そこで,供給する蒸気は早めに止め,蒸気の使用量も節約する早期締め切り(
カットオフ)という手段がとられます。
そのために,以下のような
ラップがスライドバルブにつけられています。

給気だけではなく排気口も早めに閉めて排気の一部をシリンダー内に残しておき,圧縮過程の後,跳ね返りのバネ代わりに使うことも考えられます。この方法をブラスト音をよくするために利用できると末近久之氏は雑誌に記されていました。

蒸気をカットしても急激にピストンが止まることはありません。シリンダー内の蒸気圧は依然として高く,機関車全体が大きな慣性(質量)で運動を続けているので,動輪と連動してピストンも運動を継続します。
補足( ラップについて) 重要なはたらきをするラップですが,ラップとはスライドバルブの一部に厚みをもたせただけ(下図の赤い部分)なので,サイズを測ってみてはじめてラップ が付けられていることが分かります。

ラップによる早期締め切り

デッドポイントに達する少し前,ピストンとスライドバルブが各々矢印の向きに運動している瞬間があります。蒸気ポートa はラップがなければまだ開いているタイミングですが,ラップがあるのでラップの幅だけ早目に締め切られ蒸気が遮断されます。

ラップによって早目に蒸気ポートを閉める指標として,ピストンの行程とカットオフされるまでの行程の比が使われます。
細かい点は省略しますが,スライドバルブとバルブシートの蒸気ポートのサイズから求めることができ,SSシリーズのエンジンでは百分率で84%になります。また,ラップの値(赤い部分の幅)は2mmになっています。
1 渡辺精一著「ライブスチーム」 模型蒸気機関車の全般について,形式,構造,製作に関することが図と共に詳述されています。蒸機に限らず,車輌製作に行き詰ったら多くの先達の知恵を借りることが出来ます。
平岡幸三著「生きた蒸気機関車を作ろう
製作に必要なすべての図面と製作方法の丁寧な記述によって,ライブスチームを高嶺の花とすることなく,自分の手で育てて自分の庭に咲かせる方法が述べられています。
しかし,夢の実現には並大抵でない努力を要すること,工作技能の向上が不可欠なので材料から自分の力だけで作る蒸気機関車への道はその第1歩がいまだに踏み出せていません。

 

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