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 20  分岐器を統括して転轍する 個性をもった鉄道を目指して<5>

〈STEP 1〉モーターによる転轍
庭園鉄道の分岐器は安全性の点からは手動で転轍すると作動状況も確認することになり,不具合や操作ミスを避けることが出来ると思います。

一方,手動の転轍は分岐器の手前で車輛から降りて必要な操作をしなければならず,頻繁な転轍を要する場合はかなり面倒です。

今回,分岐器3台を配置したデルタ線を敷設することになり,それを機会に遠隔操作で3ヶ所の分岐器を統括して転轍する方法を考えてみました。

複数の分岐器を統括して転轍するにはリレー回路や電子回路を利用するのが普通かもしれませんが,より単純な方法によって制御します。
トングレールを動かす部分の概略は上図1のようになります。この図には描かれていませんが駆動するモーターの電源回路を2電源にするという一風変わった工夫をしてみました。作動の要点は次の3点です。

@モーターの右回転/左回転を転轍棒の右移動/左移動に変えます。(上図,右回転➔右移動)

A転轍棒を右移動/左移動させるモーターの回転方向は逆転スイッチでは無く,2つの電源を使用することでモーター端子の極性を反転します。

Bモーターが回りトングレールが定位置に達するとマイクロスイッチがモーター電流をOFFにし転轍が完了します。このとき,モーターを逆回転させる回路は2電源の内の別電源ではたらくのでこの回路のモーター電流をONにすればトングレールは反対側に移動します。(このON-OFFの動作を繰り返して左右にポイントを切り替えます。)

〈STEP 2〉モーター端子の極性を反転する回路
直流モーターを逆回転させるにはモーター端子の極性を反転させればよいので,通常は右図2のように2回路2接点のスイッチSを使って逆転します。
このスイッチ
Sを使う方法で遠隔操作をするのは大変で,スイッチSをリレー等に置き換えなければなりません。

複雑なことをするには複雑な回路が必要とは限りません。単純な回路で複雑なことができるようにするのがベストです。そこでリレーや2回路2接点の逆転スイッチを使わず,1回路1接点の押しボタンスイッチの開閉でモーターを逆回転させる方法を考えてみました。

電位差計のことが頭に浮かび,抵抗線上の2点間の電位差を利用できないかと思い,左図3のような回路を描いてみました。
抵抗線Rの両端と中央の3点の電位差を利用すればモーターを逆回転させることができます。

押しボタンスイッチS1を押したときは図の赤字の,S2を押したときは青字のがモーターにかかり(印加され)ますから,モーター端子の極性が反転します 。

この回路の問題点は抵抗線Rに無駄な電流を流していることで,微弱な電流ならともかく,1A程度になるモーター電流ではロスが大きく実用性がありません。

あれこれ堂々巡りした末,「何だ,簡単!」と一気に解決しました。図3の抵抗線を電池に替えれば同じはたらきになります。迷路に踏み込んだのは電源は1つという固定観念から抜け出せなかったのが原因です。

押しボタンを押して転轍する時間は10秒弱なので必要な電力はごくわずかです。モーターまで長いコードを延ばす電源では不経済で,単3程度の電池をモーターの傍に置く 方が簡単です。電池を2倍使う2電源でも単3なら数や容積の点でそれ程問題になりません。

図4は図3を2電源に変えた回路です。スイッチS1を押 してモーターが正回転するならば,S2では逆回転します。

S3(およびS4)のスイッチ は図1に描いたマイクロスイッチです。そのはたらきはS1を押してトングレールを移動させ,転轍が完了した時点でS3が開きモーター電流を遮断します。それ以降はS1を押し続けてもモーターは回転しません。(S3,S4を開閉する機構は図1を参照して下さい。)

次に,スイッチS2を押すとスイッチS4は閉じているのでモーターは逆回転を始め,開いていたS3は再び閉じられます。転轍が完了した時点で今度はS4が開きモーターは停止します。この動きを繰り返しながら正回転,逆回転に対応した方向に転轍します。

この段階までは単にモーターの逆転方法として2電源の回路を考えましたが,正回転と逆回転の回路が独立していると〈STEP3〉に記すような遠隔操作,〈STEP4〉の複数の分岐器を統括して転轍する方法に応用できることに気がつきました。

〈STEP 3〉複数箇所からの転轍操作
モーター回路を正回転用と逆回転用に分離してあれば押しボタンスイッチを増設するだけで複数の箇所から遠隔操作することができます。

遠隔操作するための複雑な電子回路やリレー回路,多極スイッチなどを必要とせず,1個の押しボタンスイッチによって同じはたらきをさせます。

乗車したままで分岐器を転轍するためには押しボタンスイッチを右図のように3ヶ所に設置します。

背向(鉄道用語)側には1個ずつ,対向(鉄道用語)側には2個設けます。
図中の○内の文字は各ボタンが左−右に転轍する向きです。

これらの押しボタンスイッチの回路はごく単純で図5の様になります。

STEP2に描いた図4の押しボタンスイッチS1,S2と並列にスイッチS5〜S8を接続するだけなので,これ以上簡単な回路はないと思います。
図5の電池の極性と分岐方向は仮に描いたもので,分電池の極性と転轍方向の関係は自由に変えられます。

図5のスイッチ数には制約が無く,更に増やしてコードを延ばせば転轍機から遠く離れた複数の場所から転轍操作が行えます。

電気転轍器を押しボタンのON-OFFのみで作動させる方式は車輌の輪軸(鉄道用語)による自動転轍も可能にします。

分岐器への背向側からの進入は転轍方向が決まっていますから押しボタンスイッチは1個だけです。
そこで押しボタンスイッチの代りに輪軸を利用し,レール間を輪軸が短絡する状態をスイッチ「閉」,車輌の侵入が無い場合をスイッチ「開」にすれば,自動転轍を行うことが出来ます。

右図の様にレール間を輪軸が短絡する状態がスイッチを閉じる操作になります。実際の設置には一定区間の片側のレールを電気的に絶縁する工事が必要で絶縁した継目板などを使います。金属枕木の軌きょうには採用できませんから,自動転轍には車輌を感知して入切するスイッチなどに置き換えます。

〈STEP 4〉デルタ線の分岐器を統括して転轍
ごく狭い範囲に設置されたデルタ線や渡り線では,列車の進行方向に続く分岐器の転轍に整合性が必要です。

例えば,右図のようなデルタ線(X,Y,Z線)では下表のような組み合わせでA,B,Cの分岐器を転轍します。

(図の説明)
いま,Aの分岐器からX線に車輛が進む場合,Aの分岐器は右方分岐に転轍します。この転轍操作を自動的にBの分岐器にも反映させてBを左方分岐に転轍してしまえば,1回の転轍操作でX線が通過できます。 同じ方法をY線,Z線についてもとり入れ転轍の間違いによる脱線や分岐器の破損を無くします。
* A の転轍 B の転轍 C の転轍
X 線通過 右方分岐 左方分岐 *
Y 線通過 左方分岐 * 右方分岐
Z 線通過 * 右方分岐 左方分岐
下図6が上記の考え方でデルタ線の分岐器を統括して転轍する1つのユニットの回路です。図4の回路と基本的には変わりませんが,SBとSCのスイッチを追加します。

スイッチにはマイクロスイッチを使用するのが簡単で,押しボタンの部分を一体化してS1とSB,S2とSCは それぞれ同時ON=OFFするようにします。



上図7は,図6の分岐器Aのユニットと同じものをB,Cの分岐器にも使い,デルタ線の3台の分岐器を統括して転轍する回路です。ユニット3個を図のように結線するだけです。

(作動の説明) X線を通過する場合,ユニットAのS1のボタンを押すと分岐器Aは右方分岐側に転轍されます。同時にSBのボタンも押されるので, ユニットBのS2のボタンが押されたことになり,分岐器Bは左方分岐側に転轍されX線が通過できる状態になります。

(まとめ)直流モーターの逆回転を2回路2接点の逆転スイッチではなく1回路1接点の押しボタンスイッチで行うことが出来ないかと考え,2電源にすることを思い付きました。

この2電源の考えをすすめて複数個所からの遠隔操作を簡単な方法で実現し,分岐器を統括して転轍することに結び付けました。庭園鉄道ではシンプルな構造 であることが重要で2電源を採用することはそれなりに意味があると思います。

(2011.4.記) 

上記の構造で高原鉄道A形(片開き,鈍端トングレール形)分岐器を製作しました。駆動部分については電気転轍機に,電気回路は転轍制御のページに製作過程を記しました。

 

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