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   DD20形 補助機関車 

基本構想

簡単に入手できる低価格の材料で,走行性能がよく汎用性のある機関車を自作する。・・・・・欲張った目標です。

<その1> 急カーブでも曲がれる機関車を作る

機関車の製作時間は膨大で私の場合,完成させるまでに年単位の時間を要します。機関車を増備したいと思っても並大抵ではありません。

そこで駆動装置をもたない本機(=本務機関車:鉄道用語と動力を もつ補機(補助機関車:鉄道用語とに機関車を二分し,形だけの本機補機によって駆動する方法をとり入れることにしました。
この様にすれば補機が1輌あれば形だけ作ればよい複数の本機を走らせることが出来るので,機関車の数を簡単に増やせます。

DD20形機関車はこの補機として使う機関車なので様々な用途に対応できる構造にし,そばな高原鉄道の急カーブ(渡り線の
最小曲線半径2.0mでも楽に曲がれる ようにします。

設計に先立って,カーブを曲がる際に支障になると思われる要素を考えてみました。

(1) 車軸の両端に車輪を固定した輪軸はスリップしない限り直進します。
車輪は踏面勾配によってカーブを通過しやすくしていますが急カーブには対応できません。

(2) 固定2軸車を手で動かしてみると,一定以上の軸距(=車軸間の距離)を超えると著しくカーブが曲がり難くなります。
カーブ対策として,そばな高原鉄道では軸距の上限を20cmにしています。したがって,乗用車輌はすべてボギー車になります。

(3) 急カーブではフランジがレールを強く擦り脱輪にもつながります。カーブを安全に曲がれる車輪が必要です。
交差点の急カーブを曲がる都電のフランジがごく小さかったことを思い出しました。小さ い理由は他にあるのかも知れませんが・・・。

上にあげた(1)〜(3)を考慮して,急カーブ対応型のバッテリー機関車のプランを纏めてみました。(右上図)

駆動部は小径車輪によるボギー台車です。駆動方法は差動機を取り付けて左右独立車輪の構造にし,カーブの強さに応じて左右の車輪は異なる回転速度になります。モーターは2台,台車毎に取り付けます。
モーターと差動機の間は歯車伝動,車輪の間の伝動はチェーンです。8輪すべてを駆動します。
自動車のような差動機は構造が複雑になるのでモーターを4台にし,片側車輪を2輪ずつ駆動すれば差動機を必要とせず製作が簡単になります。今回は小型で回転数の小さなモーターが入手できなかったので見送りました。

 
<その2> モーターのトルク

機関車の牽引力はモーターのトルク(回転力)と車輪が空転しない粘着重量(動輪にかかる重量/鉄道用語の双方に関係しますから,まず粘着重量から決まる最大牽引力を調べておきます。

DD20形機関車は運転者が乗るので,粘着重量は体重を加えた値になり一定ではありません。体重の軽い運転手を想定して粘着重量を50kgw とし,車輪とレールとの間の運動摩擦係数を μ=1/5注1とします。
最大牽引力 Fmax は機関車がスリップしない限界(=運動摩擦力)から
      Fmax=μmg=(1/5)×50×9.8=98 N となります。
重心が車体の中央にあるとし,駆動を2つの台車で行いますので1台車当たりの最大牽引力は Fmax÷2=49 N となります。

この 49 N の値を基に出力(トルクと回転数)がどの程度のモーターを使用すればよいのか検討します。

発車時 (モーターは高トルク・低速回転)
発車から増速中は大きなトルクを必要とします。ただ,限度を超えたトルクでは上記の最大牽引力 Fmax (=49 N )を超えてしまい動輪はスリップします。
スリップしないトルクはどの程度か調べてみます。(計算は摩擦等の機械的ロスを無視し,等速で車輪は回転するものとします。)
モーターと車輪のトルク,および回転数をそれぞれ TmTwNmNwとし,車輪の半径をrと しますと牽引力=49 N )とトルクTmとの関係は
       49=Tw÷r=[Tm×(Nm/Nw)]÷r
          ∴ Tm=49r×(Nw/Nm)

(必要なトルク)DD20形用に製作した動輪の半径は r=36mmでギヤの減速比を仮に Nw/Nm=1/5 とした場合,モーターのトルクは
  Tm=49×36×10-3÷5≒0.353 Nm の大きさがあればよいことになります。
 
<その3> モーターの回転数

最高速度時 (モーターは低トルク・高速回転)
モーターの回転数と車輌の速度は比例します。予定している最高速度とそのときのモーターの回転数の関係を調べてみます。
モーターと車輪の回転数をそれぞれ NmNw,車輪の半径をr と しますと車輌の最高速度v
    v=2πr×Nw=2πr×(Nw/NmNm
    
 ∴  Nm=(Nm/Nwv÷2πr
となります。Nm/Nw (=ギヤ比)

(必要な回転数) 動輪半径を r=36mm,ギヤの減速比が Nw/Nm=1/5 の機関車を最高速度 v=1.7m/sで走らせるとすると,モーターの回転数は
     Nm=5×1.7÷(2×3.14×36×10-3)
        ≒3.76 回/s=2.26×103r/min

〔速度の換算式〕
実車の速度の単位は普通〔km/h〕が使われます。この実車の速度を5インチゲージに換算するときは〔m/s〕で表す方が便利で,換算は次式になります。

V=30.2×≒30v   v=0.0331×VV/30
V
:実車の速度km/h   :1/8.4模型の速度m/s

(例)上記の5インチゲージの v=1.7m/s は,実車に換算すると
      V=30.2×1.7=51.3 km/h  になります。
実車の速度 V=120 km/h を5インチゲージに換算すると
            v
=0.0331×120 =3.97 m/s  になります。

 
<その4> モーターの制御とブレーキ

速度の調節
同じ特性のモーター2台を使用し,モーターの接続を直列/並列に切り替え,抵抗器も併用してモーターの電流を変化させます。
右図の接続によって,赤-青の端子間の電流をACの順に変化させます。抵抗器の抵抗値は完成後,実際に車輌を走らせて決めます。

速度調節は,リレーとPWM(パルス幅変調)の回路で「遠隔操作」するのが一般的なようですが,機関車の上に直接乗って運転する構造なので昔からある最も単純な構造にすることが可能です。2台のモーターをスイッチの開閉で直並列制御(鉄道用語)し,電気的なブレーキにも使います。注2

発電ブレーキ
直流モーターと発電機とは同じ構造なので,モーターが車輪を回す機構は,車輪によってモーターが回される状態になるとモーターは発電機としてはたらきます。
このことを利用したのが発電ブレーキで,この回路も制御回路に付け加えます。

〈参考〉右図(上)の状態で電池からの電流でモーターが回転し車輪が駆動されます。
この駆動状態から,右図(下)のように電源を切り離しモーターの端子を短絡(赤-青端子を抵抗器でつなぐ)すると,モーターは車輪からの力で回転が持続され発電状態になります。この場合,車輌の運動エネルギーが
   (運動エネルギー)(電気エネルギー)(抵抗器での発熱)
と変換され,減速します。

駆動装置がそのまま制動装置になる点が面白いと思います。DD20形機関車で実用性がどの程度あるか調べることにします。

 
<その5> 速度優先か,牽引力重視か(ギヤ比)

最適な条件のモーターを入手することは困難なので,車輌の駆動力(トルク)と速度(回転数)とのバランスはギヤの減速比(=モーターの回転数と車輪の回転数の比)で調整します。

直流モーターは低速回転のとき,大きなトルクが得られます。注3
取り付けを予定しているモーターも,極端な使い方は避けるべきですが発車時の起動トルクはある程度の大きさが得られそうです。
そこで,ギヤの減速比は発車時ではなく,モーターが定格の回転数Nm〔r/min〕のとき,最高速度v〔m/s〕になるように決めることにしました。

ギヤの減速比kとすると,車輌の最高速度vとモーターの回転数Nmとの関係は,車輪半径がr〔mm〕のとき,
     k (=Nw/Nm)v÷(2πr×Nm)=9.55×103×v/(r×Nm)
となります。Nw,Nm:それぞれ車輪とモ ーターの回転数

(ギヤ比の試算) 動輪半径が r=36mm,最高速度を v=1.7 m/s ,モーターの定格回転数が 2400 r/min の場合,減速比k
   k=9.55×103×1.7÷(36×2400)=0.19 (減速比≒1:5)
とすればよいことになります。
 
<その6> 回転力の伝達

モーターの回転は4枚の平歯車によって回転数を1/5(上記試算の値)に減らし差動機に伝えます。差動機は傘歯車(ベベルギャ),車輪間はチェーンで回転が伝えられます。

モーターから差動機までの伝動

タイミングベルト か・・・歯車か・・・

モーターから差動機への回転の伝達は軸間距離,取り付けスペース,回転数の変換などでタイミングベルトが適していると思います。
タイミングベルトはチェーンより細かい単位で軸間距離を決めることが出来,歯車の様に静かに回転が伝わります。ただ,大きなトルクをかけるのには不向きです。

設計当初はタイミングベルト使用と決めプーリーを購入して設計をすすめましたが,差動機との関係から平歯車に変更しました。(右図,上下)
理由は平歯車のボスの中に傘歯車のボスを入れると差動機を小型化することが出来,平歯車はタイミングベルトより狭い場所でギヤ比を大きくすることができます。

車輪間の回転力の伝動

歯車か・・・チェーンか・・・
歯車が自作出来ればよいのですが,現状では無理なので既製品を購入することになります。

構造を決め製作費を計算してみると歯車が製作費の中で大きな割合を占めます。費用を削るためにチェーン伝動ではどうなるかを検討してみました。

チェーンについての知識を得るためにメーカーのwebサイトを見るとチェーン使用が適さない例が記されており,この例にそっくり該当する使い方になってしまいます。チェーンには問題点(駆動装置注1)が多くありそうです。しかし,平歯車をチェーンにすると製作費が歯車の場合の1/3位に抑えられます。
また,チェーン伝動の「粗雑なところ」が,歯車では困難な足回りのバネ装置(懸架装置)を作り易くする利点があることに気が付きました。
木を切るときに使用しているチェーンソーからチェーンを採用したときの感じは分かります。結局,問題点が多くてもそれ程の支障は出ないと判断してチェーンを使用することにしました。

 
<その7> 機関車の出力

電気機関車の出力はモーターの仕事率(=単位時間にする仕事)で決まります。しかし,モーターの仕事率は電流や負荷によって変化するので一定値にはなりません。安定した性能をもつ機関車にするために異なる角度から出力について検討してみることにしました。

速さ,牽引力,トルクなどと機関車の出力(モーターの仕事率)の関係として,次のようなものを思いつきました。

(1)
モーターに印加される電圧をV〔V〕,電流 を I〔A〕とすると,供給される電力(=消費電力)からモーターの仕事率は
        P1VI 〔W〕
(2) モーターの定格でのトルクT〔Nm〕と回転数N〔r/min〕が仕様書などから分かれば
        P2=2πNT=1.05×10-1×NT 〔W〕
(3)
走行する機関車の推進力 F〔N〕と速度v〔m/s〕とから決まってくる仕事率は
        P3Fv 〔W〕
上記3通りの仕事率は効率が100%であればP1P2P3となるはずですが,モーターの特性は不明の場合がほとんどで,機械的,電気的損失にいたっては作ってみないと分かりません。言えるのは P1P2P3 ですが,この関係でも設計の参考にはなると思います。
たとえばP1P3の効率を各々30〜70%等と仮に決めると,どの様になるか想像できます。

実際の設計では
P1は回路の抵抗値決定,配線の太さ,モーターの直並列制御の検討に
P2はモーター選定にあたって出力,ギヤ比などとの関係を考える際に
P
3は機関車の速度と牽引力とのバランスをどの辺にするか
等・・・を決める際に使用します。
機関車を完成させた後に,P1P3のいずれに余裕があるか,いずれにネックがあるか,不十分な箇所の改良・交換の参考に もなると思います。

 

(注1車輪とレール間の運動摩擦係数は双方の形状や材質,油や水の有無などにより一定しませんが,渡辺誠一著「ライブスチーム」誠文堂新光社,によれば「約1/5と見てよく・・・」とあり ,この値を使わせていただきました。

(注2ブラックボックスの部分が多い と「作る」という実感が希薄になります。エンジン模型よりはライブスチーム,ICラジオよりは鉱石ラジオという風に,「昔の技術」=原理を実感することができる技術には捨てがたい魅力があり,原理そのままのシンプルな構造は「自作」に向いていると思います。

(注3直流モーターの回転子(コイル)は磁界中を回るので回転子には(逆)起電力が発生します。始動時は回転が遅いのでこの(逆)起電力も小さく,電源からの大電流がモーターを流れ大きな回転力(トルク)が得られます。回転が速くなると(逆)起電力も大きくなるので電源からの電流が減少して回転力は小さくなります。
直流モーターの中でも特性から鉄道では直巻モーターが使われています。探してみましたが,分巻モーターに近いマグネットモーターしか入手できませんでした。

 

 DD20形補助機関車   基本構想





台車枠