そばな高原鉄道軌条の敷設分岐器基本設計(表示中)

 
 鈍端トングレール分岐器

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そばな高原鉄道ではいくつかの分岐器を設置しています。すべて自作なので基準線(鉄道用語)や分岐線(鉄道用語)の曲率,クロッシング角(鉄道用語)などを設置場所に合わせて決め,不自然な線形にならないように線路を分岐させます。

各々の分岐器はレイアウトの中の設置場所によって使われ方が異なります。今回製作の分岐器は狭いスペースに機回し線(鉄道用語)を敷設するために設計したもので,作り易い構造にすることと,見かけよりも実用性を中心に考えてみました。
(1) 設置スペースから分岐器の形を決める

右図の様に,本線から機回し線に渡る箇所に使用する分岐器です。

設置箇所はスペースが限られており,長さ200cm(図の2L)の区間で距離50cm(図の2D)離れたレール間を渡ります。

先ず,分岐線の半径Rをいくらにすればよいかを近似計算で求めます。
L≫Dのとき,D=L2/2Rの関係(参照ページ)が成り立つので,この式から半径Rは
        R=L2/2D=1002/2×25=200cmとなります。
近似計算ですが設計するRはこの値とし,分岐器の基準線(鉄道用語)は直線,分岐線(鉄道用語)は半径200cmの円にします。半径に多少の誤差があっても接続するレールの長さを調整し,接続の仕方でカバーできるので問題になりません。注*1

 

(2) 実用性中心で作り易い構造にする

分岐器の製作で大変なのはトングレールとクロッシング部分のレールです。強度面から鉄レールを使用した分岐器〔1〕では正確な形状にレールを削るためにフライス盤を使って加工しました。
実物に近い模型ならばこの個所の省略はできませんが,頻繁な切り替えと乱暴な使い方が予想される箇所の分岐器は「模型」ではなく実用性と作り易さ(=修理も容易)を優先することにしました。

トングレールとクロッシング部を簡略化し金鋸とヤスリだけで作れる方法にしす。次の2点が設計のポイントです。
   (1) トングレールは尖端レールではなく,鈍端レールにする。
   (2) クロッシング部分を1本の鉄角パイプで作る。
デュアルゲージ3線式分岐器は2線式の普通の分岐器の倍以上の手間がかかります。(1),(2)の簡略化は2線式で採用する以上に効果があると思います。

(3) 3線・鈍端トングレール分岐器(全体図)

下図が設計した分岐器です。燈色の4本のレールが上記(1)の鈍端トングレールで,レールを切断するだけで尖端の加工がありません。
上記(2)の鉄角パイプは図の茶色の部分です。複雑になるクロッシングの製作を容易にする目的で,角パイプに2本の切り込みを入れるだけで89mmと127mmゲージのクロッシングになります。
この構造なら強度的に心配な個所が無くなり,使用するのはすべてアルミレールです。アルミの加工は鉄よりもずっと楽です。

 

(4) 基本構成の数値

分岐器を設計する際に全体構成を決める主要な点は,上図のA〜Dの所になります。これらの個所について必要な数値を以下の様な考え方で求めました。
原寸図を描いて必要な値を求めることも可能かもしれませんが,A〜Dの値は計算の方が誤差が少ないと思います。(大きな図を正しく描くのは手間がかかり,図からの採寸は誤差を1mm以下にすることが出来ません。)

原点(分岐の始点)をP,横軸を基準線方向にとってPからの距離をLとし,基準線と分岐線間の距離Dを縦軸(横軸と直交)方向にとります。

〔Aの値〕 右図のように,トングレールの作動範囲はレール頭部の幅8mmとフランジ通過範囲4mmからDa=12mm とします。Daの値は車輪のバックゲージに関係し,そばな高原鉄道のバックゲージ119mmに対応します。バックゲージがこれより小さな値の車輪の通過は困難になります。(参照)

Daの値から分岐線の半径が2000mmという条件を満たすためのトングレールの長さLaが決まります。
La≫Da なので R=La2/2Da の関係(→上記(1)参照)より

         
La=(Da×2R)1/2=12×4000)1/2=219mm

〔Bの値〕 左図,Bの所の89mmゲージのクロッシング交点では,89mmゲージの基準線と分岐線との距離がDb≒89mmになります。

基準点PからBの所まで離れるとL≫Dの条件から外れるので
円の式 R2=x2+y2・・・@  から,基準点Pとクロッシング交点までの距離Lbを求めます。
@式に x=
Lb,y=(R-Db)を代入して      Lb={(R2-(R-Db)21/2=590mm 

Dbの値は正しくは (89+α)mmになるので, Lb=590mm のときのクロッシング角θ(→計算方法は下記(5)参照)を使ってαの概算値を求め,その結果から
       Db≒89.5mm とし,Lb=592mm と補正しました。

〔Cの値〕
Bと同様に,127mmゲージのクロッシング交点では,127mmゲージの基準線と分岐線との距離Dcは(補正値α≒+1mmになるので)
        Dc=127+α128mmになります。
また,基準点Pからクロッシング交点までの距離Lcは
    Lc={(R2-(R-Dc)21/2=704mm   となります。

〔Dの値〕 基準線と分岐線の距離がDd=250mmになる点の基準点Pからの距離Ldを@式により求めます。(Dは補正の必要がなく)
   Ld={(R2-(R-Dd)21/2=968mm  となります。注*2

 

(5) クロッシング・ブロックの設計

片開き分岐器は分岐の一方が直線なので,クロッシング部分を1つのブロックにまとめて角パイプで作ることにしました。
クロッシングが複雑になる3線式分岐器で角パイプに溝を2本入れるだけで作ることが出来ればかなりの簡略化です。
角パイプは入手が簡単で価格が安く,板厚2mm程度の鉄材は加工もディスクグラインダー,金鋸,ヤスリで出来るので材料として手頃です。

89mmゲージのクロッシング交点は原点Pから(上記Lb=)592mmになります。ここのクロッシング角θを図形的に求めるのは困難ですが微分で求めれば簡単です。趣味のwebサイトでは微積分の考え方に拠らない記述にしたいのですが, 他に方法がなく・・・

分岐線の円弧(R2=x2+y2・・・@)のBの位置における接線の勾配(@式の微分:dy/dx)とθとの関係は tanθ=dy/dx(大きさのみの関係)になります。
そこで,@を微分して数値を代入すると
   tanθ=dy/dx=|−x/y|=Xb/(R-Db)=592/(2000-89.5)=0.309
この値から,16mm角のパイプの溝は斜めに0.309勾配(縦16mm,横52mmの傾き ・・・ 16÷52=0.308)でカットすればよいことになります。
このtanθの値から分岐器の番数は3番です。
注*3

127mmゲージのクロッシング角θ'についても同様に計算し
   tanθ'=704/(2000-128)=0.376(≒縦16mm/横43mmの傾きでカット)となります。

*1  実際の分岐器ではリードレール(外軌)の半径をその分岐器の半径とするらしいのですが,2台の分岐器を繋いでS字カーブにするので中心線で設計すれば1台分で済みます。そこで軌間127mmの中心線を半径Rとしました。リードレールの半径に直すと5インチゲージの半径はR+(127/2),3インチ半ゲージではR+89-(127/2),またはR+(127/2)になります。

*2 (1)設置スペースから分岐器の形を決める(上記↑)では,距離2L=200cmで 2D=50cm離れた機回し線側に渡る半径をR=200cmと求めました。これは近似式による概算値で,Ld=96.8cmの計算結果からR=200cmの半径では2D=50cm渡る距離は2Ld=2×96.8=193.6cmあればよいことが分かります。

*3 分岐器の番数=(1/2)×cot(θ/2)=1/2tan(θ/2)≒1/tanθ=1÷0.309=3.24(式はθ≒0のときの近似計算です。)

片開き分岐器 基本設計



枕木レール