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 14  ゲージの壁を越えて走る 個性をもった鉄道を目指して<1>
〈第1話〉ゲージとの出会い

HOゲージやNゲージが登場する以前,「B電関」に代表されるOゲージ全盛の時代には,如何に「自作」するかが最大の関心事で,軌間(ゲージ)がどうの ・・・,縮尺(スケール)がどうの・・・,といったことはまったく考える余地がありませんでした。

現在は鉄道模型は買うのが普通になり,多くの人が手軽に楽しむことが出来ますが,当時の鉄道模型は自分の技量に合ったものを自分で作ることから始まりました。

(写真:ED19型機関車と型式不詳の電車,車体は金属製で半田付けやラッカーの手塗りは中学生には大変でした。)
(余談1)

初心者が製作可能なゲージは日本型(狭軌)車輌のOゲージだけで,販売されている部品を組み合わせてよく走る模型に仕上げることが目標です。完成して実車のイメージに近かければもう大満足です。

この様な状況では「ゲージとは車輌の大きさの尺度」という(少し間違いも含んだ)理解で十分でした。

狭軌のOゲージ模型が実車と「少し違う」と感じたのは,ホームに進入してくる機関車や電車を前方から見ていると模型の感じよりもずっと幅の狭いレール上を走って来るように見えることでした。
この様に見えた理由は〈第3話〉の補足2に記してあります。

〈第2話〉ゲージの「壁」

Oゲージ全盛の時代から時が経ち,軌間3インチ半(89mm)ゲージと5インチ(127mm) ゲージの3線式鉄道(そばな高原鉄道)を建設することになりました。

実際の鉄道景観をレイアウトに再現するには3インチ半ゲージか5インチゲージのどちらか一方を採用する方が良いのですが,双方にそれぞれ長所があり,それらの長所を併せもつ鉄道にしたい事と以前に作った3インチ半 ゲージの機関車を走らせる目的で,3線式デュアルゲージにすることにしました。

このことは大きさの異なる2種類の車輌が同じ線路上を走ることになり鉄道としての一体感を損なう心配もあります。

特に車体の大きさについての思慮が足りず,3インチ半ゲージの機関車に5インチゲージの乗用客車を牽引させるという粗雑なプランで建設を進めてしまっています。(3インチ半 ゲージと5インチゲージの車体の断面は図 1 のような感じになります。)

計算上では3インチ半ゲージ車輌と5インチゲージ車輌の車幅の比は(軌間の比に比例するので)89:127≒1:1.4となります。

5インチゲージの車体は幅,高さ共に3インチ半ゲージの1.4倍の大きさになり,連結したときのシルエットは玩具の列車に見えかねません。

元々,大きな人間が小さな機関車に引っ張られて走る”変な”鉄道なので車輌の凸凹(デコボコ)などは気にしないという感性では”模型”鉄道の看板を外さなければなりません。列車編成や景観との調和,実感的であることをなんとか実現するのが夢です。
 まとめ(1) 3インチ半ゲージ車輌と5インチゲージ車輌の車幅を比べると,5インチゲージ車輌の車幅は A=1.4 倍 広くなります。

〈第3話〉ゲージに隠された「からくり」

Oゲージ/ED19型機関車(第1話の写真)の実車が静態保存されていることを知り,晩秋のある晴れた日(実は誕生日)に見学に出かけました。

(右写真:ED19型機関車)

初めて見る実車なのにナント「見覚えのある」車体です。もちろん,Oゲージの模型が特徴を捉えていたからですが・・・・。

この機関車のサイズを調べ模型との値を比べてみました。下表はその一部です。(単位:mm,下段に標準軌の数値も追加して記してあります。)
左表で,ED19型機関車の模型は車体が1/45, 軌間が1/33の縮尺で作られています。(自分のED19型なのに軌間が1/33の縮尺であることを初めて意識しました。標準軌の模型は軌間が1/45の縮尺で32mmになります。)

軌間を1/33とした「からくり」はごく単純で,表中の32の欄でお分かりになると思います。
狭軌を1/33,標準軌は1/45の縮尺で作ることによって軌間32mm(Oゲージ)のレールが狭軌にも共通に使えるようになります。これを「第1のからくり」と呼ぶことにします。

補足
2
  狭軌の軌間を忠実に1/45にすると, 1067×(1/45)=23.7mm のレール幅になります。32mmになるようにED19は台車部分だけを幅広にしています。簡単に言えば車体を狭軌,台車とレールを標準軌の大きさ(幅)にしたわけです。・・・山形(新幹)線がこのスタイルになっているようです。

このように車体と軌間を異なる縮尺にすると外観が実車と変わるので,軌間の縮尺比を車体にも適用(OゲージのED19では縮尺比 を 1/33)すれば実車と相似形になります。この方法でスケールに戻すのを「第2のからくり」と呼ぶことにします。

ところが,ここで問題が生じます。一例として新幹線(標準軌で車幅は3400mm)とED19型電機(狭軌で車幅2700mm)の模型をこのやり方で作ってみると・・・・

新幹線の車幅:3400×(1/45)=76mm

ED19の車幅:2700×(1/33)=82mm

標準軌を走る大きな車体の新幹線よりも,狭軌で小さな車体のED19の方が(軌間を揃えて)模型にすると大きくなる逆転現象が起こってしまいます。(上表のED19の車幅が61mmから82mmになるのですから かなり大きくなります。)

一般的に狭軌車体の縮尺比を軌間の縮尺比と同じにすると,本来の車体幅が何倍になるのか計算してみました。(計算の前提に,実車の車幅は標準軌,狭軌とも軌間に比例するものとします。)

第1のからくり」の関係より
模型鉄道の
軌間(数値)=1435×N=1067×n ・・・(1) N:標準軌の縮尺比 n:狭軌の縮尺比

となります。また,実車の車体幅の縮尺比をNからnに変えた(「第2のからくり」を行った)ための車幅の変化の割合Bは
    B=nL/NL ・・・(2)      L:実車の車体幅

上の(1),(2)式より  B=(n/N)=1435/1067)=1.3 となり,第2のからくりを行うと 狭軌車両は本来の大きさの比より1.3倍大きくなります。(標準軌と狭軌の車体の大きさを逆転させる原因です。)
 まとめ(2) 3インチ半ゲージの標準軌車輌 と狭軌車輌では,縮尺比の違いにより狭軌車輌の車幅は B=1.3 倍  広くなっています。

〈第4話〉異なるゲージを 「融合」する

狭軌の車体をスケールで作ると標準軌車体より大きくなる〈第3話〉・・・という 「第2のからくり」は直ぐに別のアイデアに結びつきました。

それは,大きくなった狭軌3インチ半ゲージの車体は標準軌5インチゲージの車体の大きさに近付くのではないか・・・と言う考えです。たとえゲージが異なっても車体の大きさが揃えば,3インチ半の機関車が5インチの車輌を牽引しても不自然にならない筈です。

この考えを整理するために,狭軌および標準軌車体が縮尺比によってどのように大きさを変えるか図解してみました。

図2:<第2話>の図1の車体断面の 大小関係はこのように変わります。

(1) 3インチ半/標準軌車輌の車幅をDとし,(第1のからくりによる)3インチ半/狭軌車輌の車幅をdとします。

(2) 5インチ/標準軌車輌の車幅は,車幅の増加率
  A=1.4 から計算し,1.4D になります。〈第2話参照〉

(3)
3インチ半/狭軌車輌の車幅は,(第2のからくりで修正した後 は)車幅の増加率 B=1.3より,1.3d となります。〈第3話参照〉

ここで言う「第2のからくり で修正〈第3話〉とは 「スケールで車輌をつくる」ことと同じ意味になります。

(4) 車幅Ddの3インチ半車輌を基準にして,3インチ半/狭軌車輌を製作すれば1.3dとなり,5インチ/標準軌車輌を製作すれば 1.4D となることが分かりました。

もし,1.4D=1.3d ならば,《5インチと3インチ半のスケール車輌が同じ大きさになる。》
ことになります。これで異ゲージを「融合」する展望が開けました。

(5) Ddとの違いは実車の大きさの違い(新幹線は大きく,在来線は小さい)を正確に反映しています。したがって,D>d であることに全く問題はありません。
一方,1.41.3の違いは7〜8%程度の相違になりますが,実車そのものにも大きさのバラツキがあるのでこれも問題になりません。

1.4D=1.3d は標準軌と狭軌が同じ車体幅ということなので,1.4D>1.3d であるのはむしろ好都合です。

以上が実車の見学から思いついた「融合」の方法ですが,私の考えた通りの筋道で書きましたので説明が長くなりました。結論は まとめ(3)のように一言です。
 まとめ(3) スケールの5インチゲージ標準軌車輌とスケールの3インチ半ゲージ狭軌車輌は断面がほぼ近くなり,連結してもバランスがそれ程崩れない大きさになります。
上の説明をもっと簡単に確認していただこうと図解してみました。

(1) 下図で,左側に四角形で示した標準軌1435mmと狭軌1067mmの車輌があります。(枠内の数値は軌間です。)

(2) これらの車輌を,標準軌は1/11.3に縮尺すると127mm(5インチ ゲージ),狭軌は1/12にすると89mm(3インチ半 ゲージ)になります。( 確認の計算:1435÷11.3=127,1067÷12=89



図中のABは〈第2話〉,〈第3話〉の車幅の増加率の関係を参考のために記してあります。

(3) 縮尺の数値1/11.3 1/12はほぼ同じ大きさの値です。偶然,このように好都合な数値になっているので,これを利用して以下の結論が得られます。
(結論) 標準軌車輌を5インチゲージ,狭軌車輌を3インチ半ゲージで製作すると(ほぼ同じ比率の縮尺なので)車体の大きさの関係は実車の関係がそのまま維持されています。

よって,車種別(標準軌は127mm,狭軌は89mm)にレールを分離して ,全体を一編成に連結した状態でも車輌の大きさの関係に違和感が少なく,「融合」できると考えられます。
 
余談1 「鉄道模型」と「鉄道玩具」を無理に区別することもありませんが,模型を「自分で作る人」ははっきり区別していると思います。
それは「作る人」が自分の描くイメージを生かして模型を作ろうとすれば「模型作品」が完成し,玩具を作ろうとすれば「玩具」になるからです。
不思議に製作者の意図は第3者の目にも「模型」と「玩具」とが区別されて映るようです。細部をどのように「作る」か,何に「視点」をあてるかが模型と玩具とでは異なるからかも知れません。


手作り中心のOゲージ車輌では読み取ることができた製作者の個性(意図や視点)が鉄道模型の世界から消えつつあるような気がします。
それは「買う」という形が普通になって多くの人が鉄道模型を楽しめる様になった反面,鉄道模型が「作る」対象でなくなりつつあることに関係するからだと思います。模型以外の例に喩えるのは不適当かもしれませんが,デザインを含めて自分で好みの服を縫うのと既製服を購入するという2つのやり方に似ています。

買う」と「作る」では異なる要素があり,買って他人と同じ物/鉄道模型を持つことはできても,自分独自のイメージを創ることは困難です。多様性があるのが趣味の特質なので自作がすべてではありませんが 「作ること」への関わりがある中で自分の表現したい鉄道模型の世界が創りだされます。「模型」と「玩具」に異なる点があるとすれば精密さや見た目ではなく製作者の存在が関係しているのかも知れません。

ゲージを「融合」しようという発想は枠の中で定型化されてしまっている市販品に頼らず,模型ならば自由に自作したいという考えから生まれたと思います。私にとっては3インチ半も5インチも自分の作品を走らせる場であり,ゲージの枠を取り払って一体化できないかと考えてみました。


余談2
大型鉄道模型は3インチ半ゲージから5インチゲージへとより大型化の傾向にあるようです。しかし,自作模型を楽しむ小さな庭園鉄道には5インチゲージ日本型狭軌車輌は巨大過ぎると思います。
それに加え,上記結論のように3インチ半ゲージ日本型狭軌車輌は5インチゲージ標準軌車輌に見合う大きさなので,日本型は3インチ半ゲージとするのがそばな高原鉄道には合っていると思います。
一方,外国型標準軌車輌と人を乗せる遊具車輌は5インチゲージが適していますから,ここで記した「融合」の考え方に沿ってデュアルゲージの利点を生かす方針です。
2007.1.記

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