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 6  そばな高原鉄道の緩和曲線

鉄道では脱線防止や乗り心地を良くするために緩和曲線が設けられています。この緩和曲線を庭園鉄道に取り入れるとするとどのような曲線にすればよいのか,最小曲線半径にも関係する問題なのでレール 工事に取り掛かる前に結論をださなければなりません。

鉄道に関する知識をWebサイトのみに頼っている私としては,「検索」によってこの問題を解決しようと試みました。長時間を費やして幅広く探しましたが,徒労に終わりました。

そうなると自己流で解決するしかありません。しかも製作に使える道具は巻尺と自作の曲率測定器に限定されます。
模型鉄道なので,次の条件を元に考えをすすめることにしました。

(1)脱線・転覆の原因は遠心力のみであると割り切り,遠心力と レールの線形の関係を考える。ただし,遠心力に対処する方法としてのカントは0とする。
実際の鉄道ではカントによって遠心力に対抗する方法をとりますが,重心の位置が高く,質量・速度のばらつきも大きく,軽量の中間車輌のせり上がりまで考えられる庭園鉄道ではカントは無い方が安全と考えました。

(2)カント以外には遠心力に対抗する方法がないので,消極策に切り替えて遠心力をゆっくり滑らかに受け止める形で影響の軽減をはかる。
例えば新幹線の走りだす状態です。発車時からゆっくり滑らかに加速し,乗客に大きな慣性力を加えないので力をそれほど感じません。カーブでの遠心力も慣性力なので急激な変化を避ければ感じ方が弱くなります。

(3)地面に直交座標軸をとり,その上にグラフを描く要領で線路を敷く,という方法では施工できない。
カーブしたトンネル内に座標軸が取れるかを考えれば明らかです。簡単に描ける筈の円弧さえ中心が不明なので正確には描けません。何もない平坦地に絵を描くように線路を敷く場合と障害物を縫って目的地点まで線路を伸ばしていく場合とでは自ずから工法が異なるわけです。

レールを急に強く曲げないで少しずつ曲げを大きくしていけば脱線しにくく乗り心地のよい線形になる。・・・・感覚的に分かっていてもこの言い方では目的の「緩和曲線」は描けません。

そこで,別の言い方(簡単な式)に変えて曲線の形を検討してみました。ただし,話が複雑にならないように,車輌の運動は等速円運動に近似できると仮定しています。

(A)右図のように,半径Rの円軌道上のA点から,半径rの円軌道上のB点に「緩和曲線」のレールを敷く場合を考えてみます。

このとき,車輌は質量mの質点とみなし,速さvは一定とします。また,曲率とは(1/半径)の値で,A点の曲率は1/R,B点の曲率は1/rとなります。

図のA点で「緩和曲線」に入りますと,A点での(向心)加速度の大きさaと遠心力の大きさFは,それぞれ
  
となります。この式から(向心)加速度と遠心力の大きさは共に曲率(1/R)に比例していることが分かります。

したがって,曲率の変化率を一定にすれば向心加速度の大きさの変化率が一定となり,遠心力の大きさの変化率についても一定になります。

変化率が一定とは,その量が一様に増加(または減少)することを意味しますから,このレール上を走る車輌に働く遠心力の大きさは一様に変化することになります。(一様に変化することの重要性は下記補足に)

以上のことから,求める線形は曲率の変化率が一定の曲線ということになります。

まわりくどく要点だけの不十分な説明になってしまいました。すこし補足すると緩和曲線上に6点をとり,(向心)加速度のベクトルa・・・・・a5,を描いてみると上図のようになります。ベクトルの大きさ(矢の長さ)と曲率が比例しています。
遠心力F,F5のベクトル(青矢印)も同様で,いずれも向心加速度と反対の向きで大きさは向心加速度の大きさに比例しています。

(B)目的の緩和曲線の形が決まりましたので,実際にレールを敷く方法を考えてみま した。

具体的にするためにAB間の緩和曲線の長さが2.5mであったとし,A点とB点を含め0.5m間隔の点で曲率を測定しながらレールを曲げるとします。

A,B,2点間の曲率の変化はD=(1/r)-(1/R)ですから,単位長さ(0.5m)あたりの曲率の変化dはDを5で割って
d=D/5=(R-r)/5Rr
となります。

したがって,A点からB点までの6点の曲率は順に
1/R(1/R)+d,(1/R)+2d,
(1/R)+3d,(1/R)+4d,(1/R)+5d
となります。

R,rに書き直しますと,1/R,(R+4r)/5Rr,(2R+3r)/5Rr,(3R+2r)/5Rr,(4R+r)/5Rr,1/rとなります。

A点から巻尺で0.5m間隔にとった各点で曲率を測定しながら区間2.5mのレールを曲げれば,上図のような緩和曲線となります。

ここでの注意点はA点とB点の位置は確定的なものでなく,A点の位置を初めに決めればA点から2.5mの位置まで条件に従った緩和曲線が引かれるだけで,この位置にB点があるとは限りません。そのときにはA点の位置をずらせて目的のB点に一致する様にするなり,AB間の距離を変えるなりの現物(現場)合わせが必要です。もちろん,緩和曲線が存在 しないようなA,B,2点を設定した場合は論外です。


実際の鉄道ではカントのための緩和曲線も必要ですし,カントによって遠心力が打ち消されるので,上記とは異なる考え 方で設計されていると思います。(この緩和曲線はあくまでも,私がそばな高原鉄道のレール敷設の条件に合うように考えた,「自己流の緩和曲線」です。)

鉄道模型では直線レールと円形レールを直(じか)につなぐことがあります。この状態で車輌を走らせると,車体先頭部が円形レールに進入した瞬間,先頭部には車輌のスピードの2乗に比例した(向心加速度による)強い首振り運動が起こります。

上に記した曲線は「緩和曲線」と呼べるほど大袈裟なものでなく,カーブの強さが変わる際に生じるこの首振り運動を最低レベルにする方法として,・・・「車体先頭部が一定の割合で首を曲げながら走行する方法」・・・と言うのが適切かもしれません。
2005.1.記
補足 *1遠心力を解消させることは不可能ですが,私達はカーブに入り遠心力を受けると反射的に向心力を得る為に体を内側に傾け重心移動を行います。模型車輌に乗った状態でこの重心移動を行なうとレールの外軌側から内軌側に荷重の配分比率が変わります。
この荷重配分を変える(=重心を移動する)ことは重要な意味をもちます。
遠心力
Fと重力Wの関係は右図の様になり ,カーブ外側への転覆は外軌レール上の点Pを軸とする遠心力のモーメント=F×y に関係し,遠心力の大きさに合わせてカーブ内側への重心移動をすれば重力のモーメント=W×x が増加 してより大きな遠心力に対抗できることになります。

(注) 遠心力のモーメント」=点Pを回転軸にして車体を時計回りに回転させるのに「遠心力が果たす効果」の意。説明の必要上日常使われない用語「モーメント」を使いました。

(注) よく知られていることですが,外軌の外側に転覆しない条件は遠心力Fと重力Wのモーメント について F×yW×x となります。

●カーブを曲がるためには遠心力のモーメントへの対抗手段が必要です。実際の鉄道では内−外軌間での体重移動などあり得ない要素ですが,カント=0の庭園鉄道では重要な要素になっていると思います。
結論的に言えば,
実際の鉄道はカントによって,庭園鉄道は重心移動(=重力のモーメントを増すこと)で遠心力(のモーメント)に対抗します。

一方,庭園鉄道では高い位置に重心Gがあり
yも大きく,カーブを意識しすぎて重心を大きく移動させる(=図のxx>ゲージ幅の状態なる)と危険です。重心移動を意識せず2本のレールの中心に正しい姿勢で乗ることを心掛ければ自然に(=適正に)この荷重配分が行われると思います。

一様に遠心力を増加させる線形にレールを敷設することによって,身体的な対応が自然に行なわれ,無意識な動作(=重心移動)を有効に使ってカントに頼らない遠心力への対抗手段にする。・・・という発想がこの「緩和曲線」です。

(2005.2,2008.11追記)

●自動車を運転して直線路から曲線路に入るとき,一定の速さでハンドルをまわして自動車の進路をカーブに合わせます。ハンドルの回転角と前輪(操舵輪)の向く方向とが比例していれば,一定の速さでハンドルを回すと曲率は一様に変化するので,上記の緩和曲線を走る列車はこの自動車と同様な力を受けながら走ることになります。一般的に自動車はカーブの強さに応じて減速し遠心力の変化率を小さくしますが,列車も減速すれば同じ状況になります。この緩和曲線は自動車の走行経路に近い線形と考えられます。

(2010.11補足)

 

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